2019年1月25日金曜日

平成31年1月25日

[日ロ関係の前進に向けて]

 去る1月22日、モスクワで安倍総理とプーチン大統領による25回目の首脳会談が行われました。

 人的交流の拡大をはじめ幅広い分野での協力の推進とともに、平和条約締結問題に関しても、両首脳間で率直な意見交換が行われました。

 それぞれの国民の思いを考えると、交渉は決して容易ではありませんが、双方の交流を深めることで環境整備ができてくるものと思います。

 23日にはガルージン駐日ロシア大使が私の大臣室を訪問され、今後の協力関係についてお話ししました。

 昨年は「日本におけるロシア年」「ロシアにおける日本年」であり、関連事業として、プーシキン美術館において、9月から10月まで「江戸絵画名品展」が開催されました。文化庁及び東京国立博物館等から135件の作品が出品され、約12万人が来場する大盛況となったとのことです。
 また、言うまでもなくサッカーワールドカップ・ロシア大会での日ロ両国の活躍も記憶に鮮明です。

 今年日本で開催されるラグビーワールドカップ開幕戦では、日ロ代表の対戦が予定されており、こうした関係を通じても両国の交流が進むことを期待しています。

[改革の方向を示す重要な視察]

 昨日24日、東京工業大学大岡山キャンパスと東京シューレ葛飾中学校を訪問し、これから進めようとする教育改革の重要なヒントを得ることができました。

(東京工業大学)

 指定国立大学法人として日本の最先端の研究開発を求められている同大学では、2012年から大胆なガバナンス改革が進んでいます。
 学部卒業生の9割が修士課程に進むことも活かし、学部と大学院を「学院」に統合するとともに、学長によるそれぞれの責任者(部局長)の指名制や、教員ポストの全学管理などにより、トップマネジメントによる研究組織の統合・再編を通じた研究力強化、国際連携が促進されています。

 科学技術創成研究院は、World Research Hub Initiativeとして、地球生命研究所(ELSI)など、外国人研究者との共同研究の推進を進めています。ガラス張りの教室やロビーで当たり前のように英語で国際的な議論が交わされているのを頼もしく感じました。

 文理融合の観点からリベラルアーツ(人文・社会科目)に力を入れていることも印象的でした。リベラルアーツ研究教育院を設け、これまでの学士課程の教養科目としての位置付けでなく、学部修了後も必修科目としてリベラルアーツを学んでいます。
 しかも学部1年生で名だたる外部講師を呼んで講義を聴くだけでなく少人数のグループワークで検証するという「立志プロジェクト」を実施したり、学部3年生で「教養卒論」を提出させるにあたり、再度グループワークや修士課程の学生によるピアレビューなどをしたり、濃密な議論を要求しています。私も学生たちと議論させていただきましたが、社会における科学の実証や「いかに授業を面白くするか」など、多岐にわたるテーマが取り上げられているのに感銘を受けました。

(東京シューレ葛飾中学校)

 2007年開校の本校は、構造改革特区制度を活用して、校地校舎を賃借し、学習指導要領の内容も緩和された、不登校支援の私立中学校です。

 「靴に合わない足をしかるのでなく、足に合う靴を用意する」というコンセプトのもと、不登校の子供たちの様々な声を聞き、それを制度面や設備面で最大限に活かしているのが非常に印象的でした。明るいトイレや、子供たち専用の階段など、なるほどと思う工夫が見て取れました。

 各学年40人弱の学生がいるのですが、学年を横断した4つの「ホーム」という生活単位を設け、担任をそれぞれ2名配置しています。年間授業時間数は8割程度に抑え、英数国理社のような学年ごとの授業以外はホームごとに、またやりたいことを適宜実践する総合学習の「いろいろタイム」や「プロジェクト」という時間ではさらに自由にグループが構成されます。

 私も「いろいろタイム」で、体育館のドッジビー(痛くないフリスビーでのドッジボール)やお菓子作りの現場などを見ましたが、本当に皆さん生き生きと普通に楽しんでおられ、暖かい気持ちになりました。

 印象的だったのは卒業生やそのご家族が学校を頻繁に訪れ、授業に協力して下さっていることです。職業体験や「ようこそ先輩」という社会の各分野の最先端で活躍しているOB・OGの話を聞くことで、これまで不登校という体験から喪失していた自己肯定感が復活し、未来を前向きに考えられるようになるというのです。

 今後、視察で得られた知見も十分に活かし、その支援や横展開に努めて参ります。

2019年1月10日木曜日

平成31年1月10日

[神奈川での濃密なプログラム]

 昨日9日、日帰りで4つの施設を連続視察し、貴重な知見を得ることができました。

(横浜市立北山田小学校)

 平成8年創立の学校でしたが、学校や市教育委員会の高い意識により、授業のIT化や働き方改革が大変進んでいました。

 授業においては、デジタル教科書の活用や、ICT支援員を伴った高学年でのプログラミング学習などの他、算数でどのレベルの子も充実した学びができるコース別学習の推進が印象的でした。

 働き方改革においては、ICカードによる出退勤管理、教職員間の情報共有のためのグループウェアの導入、ペーパーレス職員会議を進めているほか、残業や休日出勤を減らすための留守番電話や日直なき閉庁日の導入、通知表の簡素化やプール清掃等の外部委託、各種契約のオンライン化、教科担任制を活用して計画的な年次休暇の取得を進めるなどの工夫が印象に残りました。

 その結果同校では先生方のストレスチェックが良好で、健康リスクも全国の健康リスク平均を100とすると54と好成績(昨年は64)となっていることから、こうした取組みをさらに全国展開していくよう、各地の取組みの指標化を進めたりするなど後押しをしていきたいと思います。

(筑波大学附属久里浜特別支援学校)

 昭和48年創設当時は重度・重複障害児教育のメッカとしての役割を担っていましたが、現在は知的障害を伴う自閉症のある幼児・児童に対する教育、教育課程の改善に関する研究を行っています。

 早期からの、かつ的確なアセスメント・根拠に基づく指導が行われ、現場を見て沢山の驚きがありました。障害の態様が個別的で対処法も様々あること、福祉や医療との連携など、しっかり横展開していく必要があります。

(国立特別支援教育総合研究所)

 上記久里浜校に隣接し、わが国唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、国内外の情勢の変化も踏まえ、国の政策課題や教育現場の課題に対応する専門的な研究や、久里浜校での実習を含めた研修を実施しています。

 この日は2ヶ月にわたる研修プログラムの初日で、私から激励の挨拶をさせていただきました。所内では全く音のない「無響室」の体験をはじめ、数々の教材(市販・学校現場での開発)などを見させていただきました。役員との意見交換では、差別解消という意味での健常者と一体のインクルーシブ教育は大事だが、これからは障害の個別性に即した教育の推進が求められるということ、そうしたノウハウの共有のために教員研修の遠隔実施などを適宜活用できるという話をさせていただきました。

(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

 略称JAMSTECのこの施設は海洋分野の研究開発の中核機関で、温暖化・酸性雨やプラスチック廃棄物など大きく注目されている海洋・地球環境の把握と予測、地震や火山活動の研究、海洋資源の持続的有効活用に資する研究などが進められています。

 保有する深海調査研究船「かいれい」に乗船して説明を受け、無人探査機「かいこう」、有人潜水調査船「しんかい6500」、深海巡航探査機「うらしま」や無人探査機「ゆめいるか」も見てきました。

 昨年末、資源探査のための競技会である、Shell Ocean Discovery XPRIZEには、当機構からTeam KUROSHIOが出場しましたが、今年の3月に結果が発表されるとのことで、今から楽しみです。

 実利とロマン、美しい地球を追求すべく、これからも努力を重ねて参ります。

2019年1月2日水曜日

平成31年1月2日

[大胆な改革と果実を]

 平成31年の新春を迎え、謹んでお慶びを申し上げます。国民の皆様と日本社会が繁栄する年となるよう祈念致します。

 昨年は文部科学大臣に就任して以降、まさに激動の日々でした。年末には厚労省とも調整し、一部大学の医学部医学科の不適切入試判明による追加合格に伴い、今度の受験生のための減員緩和措置を発表するなど、最後まで無我夢中でした。さらに様々な大胆な改革に着手する年でもありました。

 昨年を「種をまく時期」とすると、今年はその種が大きく芽を出し、そして伸びる1年になるよう、年頭に当たり、決意を新たにしております。

 まず、文部科学省の改革については、若手職員も参画する「文部科学省未来検討タスクフォース」が昨年12月に省改革に関する提言を取りまとめたところであり、私が本部長の「文部科学省創生実行本部」における議論に反映するとともに、今後、文部科学省一丸となって文部科学省の再生に向けて一つ一つの取組みを真摯に積み重ねて、皆様の信頼回復に向けて全力を挙げて参ります。

教育について]

 今、教育は大きな転換点にあります。次の4点について特に力を入れて取り組んで参ります。

 1点目は、新時代の学びを支える先端技術の活用です。「ソサエティ5.0」の時代こそ、学校は人間としての強みを伸ばしながら、人生や社会を見据えて学び合う場となることが求められます。昨年11月に「新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向けて~柴山・学びの革新プラン~」をまとめたところですが、児童生徒の学びの質を高めるため、教師を支援するツールとして、遠隔教育を含めた先端技術の活用を進めて参ります。具体的には、2020年代の早期に全ての小中高校で遠隔教育を活用できるようにすること、先端技術の導入による教師の授業支援、学校のICT環境整備などに取り組んで参ります。

 2点目は、学校における働き方改革の推進です。安倍内閣が「働き方改革」を実行する中で、教職の専門職としての教師にふさわしい勤務環境を確保し、わが国の義務教育の高い成果を支える持続可能な体制を確立するため、本年を「学校における働き方改革」を加速する年と位置づけ、その実現に向けて全力で取り組んで参ります。
 これを実現すべく、昨年末、中央教育審議会において答申素案が示され、意見募集においても多くのご意見をいただきました。これらを踏まえて、勤務時間管理の徹底や業務の明確化・適正化、教師の勤務のあり方を踏まえた勤務時間制度の改革、小学校における質の高い英語教育のための専科指導等に必要な教職員定数の改善充実、部活動指導員やスクール・サポート・スタッフ等の外部人材の配置拡充などを総合的に推進します。

 3点目は、家庭の経済事情に左右されることなく、誰もが希望する質の高い教育を受けられるよう、教育の無償化・負担軽減を推進することです。1昨年12月に閣議決定された新しい経済政策パッケージ及び昨年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」に基づき、関係府省と十分に連携を図りつつ、幼児期から高等教育段階までの切れ目のない形での教育の無償化・負担軽減の施策の具体化に向けた検討を進めてきたところです。
 幼児教育の無償化については、本年10月からの実施に向けて、地方自治体とも連携しながら、しっかりと準備を進めて参ります。
 高等教育については、2020年度から、大学、短期大学、高等専門学校及び専門学校の全ての意欲ある住民税非課税世帯の学生等について、授業料減免措置を講ずるとともに、支援を受けた学生等が学業に専念できるよう、学生生活を送るのに必要な生活費を賄うため、給付型奨学金の支給額を大幅に増やします。また、住民税非課税世帯に準ずる世帯の子供たちについても、必要な支援を行います。
 さらに、2020年度までに年収590万円未満世帯を対象とした私立高等学校授業料の実質無償化を実現します。また、高校生等の奨学給付金の充実にも取り組みます。

 4点目は、大学改革の推進です。18歳人口の減少が予想される中で、国の知的基盤である大学がわが国の成長・発展を牽引し、新たなイノベーションを創出する人材を育成できるよう、高等教育全体の構造転換が必要です。このため、変化に対応した人材育成、全ての人が活躍し続けられる社会をつくるための人材への投資、大学改革の推進と教育研究力の強化を一体的に進めて参ります。
 具体的には、大学入学者選抜改革や文系・理系にとらわれない新しいリテラシーに対応した教育など、ソサエティ5.0に対応した大学教育改革を進めます。また、教学マネジメントに係る指針の策定、学生が身に付けた能力・付加価値の見える化など、教育の質の保証に取り組んでまいります。大学の基盤強化、連携・統合については、国立大学の一法人複数大学制度の導入や大学ガバナンスコードの策定、学校法人の自律的なガバナンスの改善・強化、国公私立の枠を越えた連携を可能とする「大学等連携推進法人(仮称)」の制度創設の検討などに取り組んで参ります。併せて、リカレント教育を抜本的に拡充し、生涯にわたって学び続け、チャレンジし続けられる機会の確保を目指します。これらのことをパッケージとして進めて参ります。

科学技術について]

 昨年、本庶佑(ほんじょたすく)京都大学特別教授が、ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。本庶先生の受賞は、わが国の高い研究水準を世界に示し、がんに苦しむ世界中の人たちに大きな希望を与えるものであり、先生の業績に心からの敬意を表したいと思います。
 一方、わが国の研究力は、諸外国に比べ相対的に低下傾向にあります。このような現状を一刻も早く打破するため、科学技術イノベ―ションについては、次の3点に特に力を入れて取り組んで参ります。

 1点目は、研究「人材」「資金」「環境」の改革を、「大学改革」と一体的に進め、科学技術イノベーションシステム改革を加速することです。具体的には、研究「人材」の改革として、若手研究員のポストの確保や、キャリア形成に資する流動性確保と支援強化などに取り組みます。研究「資金」の改革については、若手研究者への重点支援、科研費改革の実行・検証、新興・融合領域への取組みや国際共同研究の強化などに取り組みます。また、研究「環境」の改革については、研究施設・設備の共用の促進や研究者の事務負担の軽減などに取り組みます。

 2点目は、オープンイノベーションの加速による官民投資の拡大です。昨年6月閣議決定された「統合イノベーション戦略」において示された、「2025年までに民間投資3倍」の実現に向けて、大学等におけるオープンイノベーションを強化する体制の構築支援など民間投資を誘発する施策を加速致します。具体的には、大学等において優れた研究者を部局を超えて組織化し、事業家・知財等の専門人材により企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究を集中的にマネジメントする体制の構築を支援(「組織」対「組織」の産学官連携)して参ります。また、起業に挑戦しイノベーションを起こす人材の育成、創業前段階からの経営人材との連携等を通じて、大企業、大学、ベンチャーキャピタルとベンチャー企業との間での知、人材、資金の好循環を起こし、ベンチャー・エコシステムの創出に取り組んで参ります。

 3点目は、大規模研究開発プロジェクトの推進です。具体的には、次世代放射光施設など物質科学等を支える最先端の研究基盤をはじめとする大型研究施設等の整備・共用を促進するとともに、2020年度に初号機打上げを目指したH3ロケットの開発や、同時期に地球への帰還が予定されている「はやぶさ2」に代表される宇宙探査の推進など、国内外で大きな期待と関心が寄せられている宇宙・航空分野の研究開発や、海洋・極域、原子力(世界の状況を見つつ)に関する研究開発など、国主導で取り組むべき基幹技術を推進します。

スポーツ・文化]

 本年は、わが国でラグビーワールドカップが開催されます。そして、来年はいよいよ2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。これらの大会に向けた取組みを強力に進めるとともに、草の根レベルのスポーツもしっかりと底上げをしていく必要があり、スポーツの実施率の向上、障害者スポーツの振興、学校体育の充実等に取り組みます。
 また、スポーツ団体のガバナンスの問題などについても大きな目が注がれている中、スポーツ活動が公正かつ適切に実施されるよう、昨年12月に策定した「スポーツ・インテグリティの確保に向けたアクションプラン」に基づき統括スポーツ団体等との緊密な連携の下、スポーツ・インテグリティ確保のための取組みを進めて参ります。

 文化については、2020年東京大会の成功に向け、「日本博」等の「文化プログラム」を全国で展開し、日本遺産等の様々な文化資源を活用しながら、伝統文化から現代芸術まで幅広い文化による国づくりをオールジャパンで推進します。また、文化芸術の振興に加えて、世界に誇れるわが国の文化資源を付加価値を付けてより魅力あるものに磨き上げ、文化資源を活かしたまちづくり・観光拠点形成への支援など、文化を通じた観光振興・地域活性化にしっかりと取り組んで参ります。

[終わりに]

 以上、年頭に当たり、特に力を入れて取り組んで参りたい点を中心に所感を申し上げました。
 私としては、復興の加速化をはじめ、文部科学行政全般にわたり、信頼の回復に努めつつ、「人づくり」をはじめとした諸課題の解決に着実に取り組む考えです。引き続き国民の皆様のご理解、ご支援をよろしくお願い申し上げます。